お彼岸の時期になると食卓やお供えに天ぷらが並ぶことが多く、「どうして揚げ物をお供えするのかな…」と不思議に思うこともあるでしょう。
あるいは、「精進料理として何を選べば正しいの?」とマナーについて心配しているかもしれません。
この機会に、昔から続く風習の理由や作法を理解して、迷いなくお彼岸を過ごしてみませんか。
この記事では、仏事における食事やお供え物の意味を正しく知りたい方に向けて、
– お彼岸に天ぷらが選ばれる理由と精進揚げについて
– お供えに適した具材や避けるべき食材
– 知っておきたいお供えのマナーと地域ごとの風習
上記について、解説しています。
理由を知ることで、ご先祖様への供養の気持ちもより一層深まるはずです。
準備する際の注意点もわかりやすくまとめていますので、お彼岸を迎える前にぜひ参考にしてください。

お彼岸に天ぷらを食べるのはなぜ?精進揚げの由来と理由
お彼岸に天ぷらを食べる主な理由は、肉や魚を使わない精進料理の中でも、ボリュームがあり満足感を得やすい「精進揚げ」として古くから親しまれてきたからです。
ご先祖様を敬い殺生を避ける期間だからこそ、植物性の食材だけで心を込めて作ったご馳走をお供えするという意味合いが強くあります。
仏教の教えにより動物性の食材を避けると、どうしても食事が質素になりがちですが、油で揚げることでコクと旨味が加わり、豊かな味わいを楽しめるようになるでしょう。
昔の人々は、限られた食材の中で栄養を摂り、美味しく食べるための知恵として、この調理法を大切にしてきました。
例えば、春にはタラの芽やフキノトウなどの山菜、秋にはサツマイモや舞茸、レンコンといった旬の野菜を使い、季節の移ろいを感じながらいただくのが一般的です。
旬の恵みを衣で包んで揚げることで素材の甘みが引き立ち、仏様への供養になるだけでなく、集まった家族にとっても特別な食卓となります。
殺生を避ける精進料理の考え方と仏教の教え
お彼岸に天ぷらが選ばれる根本的な理由は、仏教における「不殺生戒」という重要な教えに基づいています。
これは生き物の命を奪うことを禁じる戒律のことで、仏道修行の期間でもあるお彼岸においては、この精神が特に重んじられてきました。
そのため、肉や魚といった動物性の食材を一切使用せず、野菜や豆類、海藻などの植物性食品のみで献立を構成する精進料理をいただくのが古くからの習わしです。
こうした制約の中で、ご先祖様への感謝を表しつつ食事としての満足度を高めるために生まれたのが、野菜を中心とした天ぷらである精進揚げでした。
精進料理は単に肉食を避けるだけでなく、食材の命を余すことなく使い切ることで徳を積むという意味合いも込められています。
殺生を避けて身を清めることは、迷いのない彼岸の境地へ近づくための修行の一つであり、故人を偲び供養する上で最もふさわしい食の形として現代に受け継がれています。
昔は貴重だった油を使った「ご馳走」としての意味
現代ではスーパーで手軽に購入できる食用油ですが、かつての日本においては非常に高価で貴重な品でした。
江戸時代以前、油は主に灯明(明かり)をともすために使われており、庶民が日常の食事で大量に使うことは難しかったのです。
そのため、たっぷりの油で食材を揚げる天ぷらは、お祭りや特別な行事の際にしか食卓に並ばない、まさしく「ハレの日」のご馳走でした。
お彼岸にご先祖様を迎えるにあたり、当時の人々は自分たちのできる精一杯のおもてなしとして、貴重な油を使った精進揚げを供えました。
肉や魚を使わない精進料理は淡白な味になりがちですが、油で揚げることでコクやボリュームが加わり、満足感のある食事になります。
また、季節の変わり目で体調を崩しやすい時期に、栄養価の高い油料理を摂ることは、農作業などで疲れた体を労わる貴重な栄養補給の役割も果たしていたのです。
ご先祖様へのおもてなしと栄養補給の役割
かつて植物油は庶民にとって非常に高価な貴重品であり、日常的に使えるものではありませんでした。
そのため、ふんだんに油を使った天ぷらを供えることは、ご先祖様に対する最大限の敬意を表す最高のご馳走という意味合いが強かったのです。
また、仏教の教えに基づく精進料理は肉や魚を一切使用しないため、煮物や和え物だけではどうしても食事が淡泊になり、カロリーも不足しがちになります。
そこで、衣をつけて油で揚げる精進揚げを取り入れることで、植物性の食材だけでも十分な満腹感とコクを補う知恵が生まれました。
季節の変わり目であるお彼岸は体調を崩しやすい時期でもありますが、カボチャやサツマイモといった栄養価の高い旬の野菜を油で調理して摂取することは、私たち自身の健康維持にも理にかなっています。
お供え物を下げて家族でいただく行為には、ご先祖様のご加護を受けながら、明日への活力を養うという重要な役割も込められているのです。
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精進料理「精進揚げ」のルールと普通の天ぷらとの違い
お彼岸にいただく「精進揚げ」とは、仏教の教えに基づき、肉や魚などの動物性食材を一切使わずに作る天ぷらのことを指します。
一般的な天ぷらとの最大の違いは、具材の制限だけでなく、衣の材料にも卵を使用しないという点にあるのです。
なぜこのような厳しいルールが設けられているのかというと、無益な殺生を禁じる仏教の戒律を守りながら、ご先祖様への供養を行うためでしょう。
普段の食事とは異なり、命あるものへの慈悲の心を持ち、植物性の食材だけで心身を清めることが精進料理における大切な作法とされています。
具体的には、海老やイカといった魚介類の代わりに、サツマイモやレンコンなどの旬の野菜、あるいは高野豆腐などが具材として選ばれます。
また、衣を作る際もつなぎの卵を使わず、小麦粉を冷水で溶くだけのシンプルな調理法となるため、素材本来の持ち味が引き立つ仕上がりになるのが特徴です。
天つゆの出汁にかつお節を使わず、昆布や干し椎茸で旨味をとるのも、精進揚げならではのこだわりといえます。
肉や魚を使わず野菜を中心にする具材選び
精進揚げは仏教の戒律に基づいているため、一般的な天ぷらとは異なり、海老や魚介類、鶏肉といった動物性の食材を一切使用しないのが大原則です。
不殺生の教えを守り、命を奪わずに得られる植物性の食品だけで献立を構成します。
基本となるのは季節の野菜や山菜、キノコ類ですが、高野豆腐や湯葉、生麩などの大豆加工品を取り入れてボリューム感を出すことも珍しくありません。
具材選びでは旬を強く意識することが重要で、自然の移ろいを感じられる食材を積極的に採用します。
春のお彼岸には、タラの芽やフキノトウといった春野菜を用いることで、冬の間に体に溜まった老廃物を排出するといった薬膳的な意味合いも持たせられるでしょう。
秋にはサツマイモやカボチャ、レンコンなどの根菜類や、舞茸や椎茸などが主役となり、実りの秋を象徴する豊かな食卓になります。
その時期に一番おいしい大地の恵みを選ぶことこそが、精進料理における贅沢であり、ご先祖様への何よりのお供えとなります。
衣に卵を使わないのが本来の作法
一般的な天ぷらと精進揚げの最も大きな違いは、衣の材料にあります。
普段家庭で作る天ぷらの衣には、コクを出したりふんわりと仕上げたりするために卵を使うのが一般的です。
しかし、殺生を禁じる仏教の教えに基づく精進料理では、卵も鶏という動物に由来する食材とみなされるため、本来の作法では使用を避けるのが原則です。
そのため、精進揚げの衣は卵を使わず、小麦粉と水だけで作られます。
つなぎとなる卵が入らない分、衣が食材に薄く付き、揚げ上がりはパリッとした軽やかな食感になるのが特徴です。
余計な味が加わらないため、野菜や山菜が持つ本来の甘みやほろ苦さをダイレクトに味わえるという利点もあります。
現在では厳格なルールに縛られず、家庭では卵を使うことも増えていますが、お彼岸にお供えする際は、こうした本来の意味を込めて小麦粉と冷水だけでシンプルに揚げてみるのも良いでしょう。
時間が経ってもべたつきにくく、お供え向きの仕上がりになります。
五辛(ごしん)と呼ばれる避けるべき野菜の種類
精進料理では肉や魚を避けることは広く知られていますが、実は野菜の中にも使ってはいけない種類が存在します。
これらは「五辛(ごしん)」と呼ばれ、主に刺激の強いネギ属の野菜が該当します。
具体的には、ネギ、ニンニク、ニラ、ラッキョウ、そしてタマネギの5種類を指すのが一般的です。
仏教においてこれらの野菜が避けられる理由は、その強い香りと性質にあります。
独特の匂いが修行の場にふさわしくないとされるほか、食べると精神を興奮させ、情動を乱して修行の妨げになると考えられているからです。
「精進」とは本来、美食を慎み精神修養に励むことを意味するため、心を落ち着かせる食事であることが重視されます。
お彼岸に供える精進揚げを作る際も、これらを具材にするのは避けるのが本来の作法です。
タマネギのかき揚げなどは家庭の定番ですが、正式なお供えとしてはサツマイモやレンコンなどの根菜類を選び、薬味のネギも控えるよう配慮しましょう。
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お彼岸の天ぷらに定番はある?おすすめの旬の野菜
お彼岸にお供えする天ぷらの具材には、その時期に最も美味しくなる旬の野菜を選ぶのが定番であり、何よりのおもてなしになります。
本来、精進料理では殺生を避けるために肉や魚を使わず、自然の恵みである野菜や穀物などを中心に献立を組み立てるのが基本です。
季節ごとに大地のエネルギーをたっぷりと蓄えた食材を取り入れることは、ご先祖様への感謝を表すとともに、私たち自身の健康を願う意味合いも含まれています。
無理に珍しい野菜を探し回る必要はなく、近所のスーパーで手に入る新鮮なもので十分に想いは届くでしょう。
具体的には、春のお彼岸ならば苦味が特徴のタラの芽やふきのとう、甘みのある新玉ねぎやアスパラガスなどが季節感たっぷりの一品となります。
一方で秋のお彼岸には、ホクホクとした食感のさつまいもやカボチャ、風味豊かな舞茸やシメジなどのきのこ類、そしてナスなどが食卓を彩るはずです。
旬の味覚をカラッと揚げて、故人と一緒に季節の移ろいを感じてみてください。
さつまいもやレンコンなど縁起の良い根菜類
精進揚げでは、旬の葉物野菜だけでなく、さつまいもやレンコンといった根菜類も定番の具材として重宝されます。
これら根菜がお供えに適している大きな理由は、水分が少なく時間が経っても味が落ちにくいため、お供えを下げた後でも美味しくいただける点にあります。
中でもレンコンは、極楽浄土に咲くとされる「蓮(ハス)」の地下茎にあたるため、仏教行事であるお彼岸には最適な食材です。
また、穴が空いている形状から「将来の見通しが良い」とされる縁起物でもあります。
さつまいもは、かつて砂糖などの甘味が貴重だった時代に、子供から大人まで喜ぶ特別なご馳走として扱われていました。
その黄金色は仏壇を明るく彩り、質素になりがちな精進料理に華やかさを添えてくれます。
その他、ごぼうや人参など大地に深く根を張って育つ野菜は、自然の恵みへの感謝を表すとともに、ご先祖様との深いつながりを感じさせる食材として大切にされています。
春と秋で使い分ける季節の旬な具材
お彼岸は春と秋で異なる趣があり、精進揚げの具材もその季節ならではの旬を取り入れるのが基本です。
3月の春彼岸には、厳しい冬を越えて芽吹いた生命力あふれる山菜や野菜を選びます。
独特のほろ苦さが春の訪れを告げる「ふきのとう」や「タラの芽」、柔らかく香りの良い「たけのこ」や「菜の花」などが代表的です。
また、甘みのある「新玉ねぎ」や「アスパラガス」も、この時期だけの瑞々しさを楽しめるでしょう。
対して9月の秋彼岸では、大地の実りと収穫への感謝を込めた食材が食卓を彩ります。
ホクホクとした食感が魅力の「さつまいも」や「かぼちゃ」、歯ごたえの良い「レンコン」といった根菜類は、天ぷらにすることで素材の甘みが一層引き立ちます。
さらに、香り高い「舞茸」や「椎茸」などのきのこ類、「ナス」や「銀杏」も秋の味覚として欠かせません。
このように季節の移ろいを感じる食材を使い分けることで、ご先祖様へのおもてなしの心がより深く伝わるはずです。
余った煮物を天ぷらにするリメイク文化
お彼岸の時期には、仏壇へのお供えや来客用として、筑前煮や煮しめなどの煮物を大鍋でたくさん作ることがよくあります。
数日間かけて食べるうちにどうしても味が単調になったり、量が多すぎて余ってしまったりすることもあるはずです。
そんな時に古くから家庭で行われてきたのが、煮物を天ぷらに変身させるリメイク術です。
既に柔らかく煮込まれ、中までしっかりと出汁の味が染み込んだレンコンや里芋、干し椎茸などに衣をつけて揚げると、驚くほど風味豊かな一品に生まれ変わります。
水分を含んだ煮物を揚げることで、外はカリッと香ばしく、中はとろりとジューシーな食感を楽しめるのが大きな魅力です。
下味が十分についているため天つゆをつける必要がなく、冷めても味が落ちにくいので、お茶請けとしても喜ばれます。
食材を無駄なく最後まで使い切るという「もったいない」の精神と、日々の食事に変化を持たせる生活の知恵が、この調理法には詰まっています。
地域性も豊か!長野県などで見られるお彼岸の天ぷら事情
お彼岸に天ぷらを食べる習慣は全国一律のものではなく、実は長野県や福島県の一部などで見られる地域色豊かな食文化です。
特に信州地方では、お盆やお彼岸の時期になると、仏壇へのお供え物や親戚が集まる際の行事食として、天ぷらが欠かせない存在となっています。
なぜこれらの地域で天ぷらが定着したのかというと、かつて貴重品だった油や砂糖をふんだんに使った料理を振る舞うことが、ご先祖様への最大のおもてなしだったからです。
また、農作業の合間に手軽にエネルギー補給ができる点や、時間が経っても味が落ちにくい保存食としての側面も、寒冷地や農村部で好まれた理由の一つでしょう。
具体的には、長野県のスーパーに行くと、この時期には野菜の天ぷらだけでなく「天ぷら用のお饅頭」が店頭に山積みに。
甘いお饅頭に衣をつけて揚げた「天ぷらまんじゅう」は、サクサクの衣と温かい餡の甘じょっぱさが特徴で、おやつではなく「おかず」として食卓に並ぶのが一般的です。
天ぷら饅頭(まんじゅう)を供える独特の文化
長野県の全域、特に北信や東信エリア、さらには福島県の会津地方などでは、お彼岸やお盆に「天ぷら饅頭」をお供えする独自の食文化が色濃く残っています。
これは文字通り、こしあんや粒あんが入った甘いお饅頭に小麦粉の衣をたっぷりとつけ、油で揚げて天ぷらにした郷土料理です。
この時期になると地元のスーパーマーケットには専用の特設コーナーが設けられ、家庭の食卓や法事の席に欠かせない一品として並びます。
この習慣が生まれた背景には、冷蔵庫がなかった時代に少しでも日持ちを良くしようとした保存の知恵がありました。
また、時間が経過して硬くなってしまったお供え物のお菓子を、揚げ直すことで柔らかくして無駄なく食べる工夫でもあります。
食べ方もユニークで、甘いあんこに醤油や塩をかけ、「甘じょっぱい」味わいを楽しむのが地元流です。
他県出身者には驚かれますが、先祖供養と結びついた大切な行事食として愛され続けています。
親戚が集まる「おとき」での振る舞い料理
法要の後に設けられる食事会のことを「おとき(お斎)」と呼びますが、長野県をはじめとする一部の地域では、この席に天ぷらが欠かせないものとして定着しています。
多くの親戚が一堂に会するおときでは、一度に大量に調理ができ、見栄えも豪華な天ぷらが、おもてなし料理として最適だった背景があります。
かつて油や小麦粉が貴重だった時代、それらをふんだんに使った揚げ物は、集まってくれた人々への精一杯の感謝を表す「ご馳走」でした。
また、肉や魚を使わずに満足感を出しやすい点も、精進料理の精神に寄り添っています。
実際の集まりでは、大皿に山盛りにされた季節の野菜や、地域独特の「天ぷら饅頭」などが食卓に並ぶ光景がよく見られます。
久しぶりに顔を合わせた親族たちが、ボリュームのある天ぷらを囲みながら故人の思い出話に花を咲かせる時間は、お彼岸の行事において単なる食事以上の、人と人の絆を深める大切な役割を果たしているのです。
地域によって異なるお供え物の習慣の違い
お彼岸のお供え物といえば、全国的には春のぼたもちや秋のおはぎがスタンダードですが、地域に目を向けると実に多様な独自の風習が息づいています。
例えば、長野県のほぼ全域をはじめ、岐阜県の飛騨地方や福島県の会津地方などでは、紅白の薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)に衣をつけて揚げた「天ぷらまんじゅう」がお供えの主役として扱われることが珍しくありません。
これは単なる珍味ではなく、古くから小麦の栽培が盛んだった地域性や、寒冷地においてカロリーを摂取し保存性を高める必要があった生活の知恵といえます。
また、同じ穀物を使ったお供えでも、関東や東北の一部では彼岸団子と呼ばれる特別な形のお団子を用意するなど、エリアによって作法が異なります。
このように仏壇に並ぶ品々は、その土地の気候風土や歴史的背景を色濃く反映しており、ご先祖様を敬う心は共通していても表現方法は千差万別です。
天ぷらをお供えする際のマナーと配置の基本
お彼岸で天ぷらをお供えする際は、形式だけにとらわれるのではなく、ご先祖様がすぐに召し上がれるように「仏様から見て正面」になるよう配置するのが最も大切なマナーとなります。
お供え物は単なる飾りではなく、故人と心を通わせるための大切な食事ですから、相手を思いやる配膳を心がけることが供養の基本です。
これは、仏教においてお供えする料理が「仏膳(ぶつぜん)」と呼ばれ、亡くなった方が生前と同じように食事を楽しむ時間と考えられていることに由来します。
私たちが目上の方や大切なゲストに食事を振る舞うのと同じように、箸の向きや器の位置を丁寧に整えることで、ご先祖様への敬意と日頃の感謝がより深く伝わるでしょう。
具体的には、お膳やお皿の正面を自分たちとは逆の「仏壇側」に向け、お箸も仏様の手元となる一番奥側に横向きで添えるのが作法です。
天ぷらを盛り付ける際には、左にご飯、右に汁物という和食の基本配置を守りつつ、殺生を避けるために海老や魚は使わずに、サツマイモやレンコンといった旬の野菜を高く立体的に盛り付けると見栄えも良くなります。
仏壇にお供えする際の正しい向きと皿の選び方
仏壇に天ぷらをお供えする際は、ご先祖様が食事をしやすいように配慮するのが基本です。
もっとも大切なのはお供えの「向き」で、お箸を添える場合は、持ち手側を仏壇の奥(仏様がいる側)に向けて置きます。
これは、私たちが食事をする際と同じようにお膳を差し出し、仏様に召し上がっていただくという意味が込められています。
使用するお皿は、正式には霊供膳(りょうぐぜん)や高月(たかつき)といった仏具を使いますが、ご家庭にある陶器の平皿で代用しても問題ありません。
その際は、お皿に直接天ぷらを乗せるのではなく、半紙や懐紙を敷くのがマナーです。
紙を敷くことで、油がお皿に染みつくのを防ぐだけでなく、見た目も清浄で上品な印象になります。
盛り付けるときは、崩れないように立体的に積み上げると美しく仕上がります。
揚げたての扱いやお供えを下げるタイミング
天ぷらなどの精進揚げをお供えする際は、できれば揚げたての温かい状態を選ぶのが理想的です。
仏教には香食という考え方があり、仏様やご先祖様は料理から立ち上る湯気や香りを召し上がるとされています。
そのため、香ばしい匂いが広がる一番美味しい状態を最初にお出しすることが、何よりのおもてなしになります。
お供えを下げるタイミングについては、お線香が燃え尽きた頃や、家族が食事を始める直前が良いでしょう。
長時間お供えしたままにすると、天ぷらの油が酸化して風味が落ちるだけでなく、衛生面でも好ましくありません。
特に湿気の多い時期などは注意が必要です。
仏壇から下げた天ぷらは、お下がりとして家族みんなで分け合っていただくことが供養の基本です。
これを神仏と共に食事をする共食と呼び、ご先祖様との繋がりを深める行為とされています。
遠慮して供え続けるのではなく、美味しいうちに下げて、感謝の気持ちと共にいただくことをおすすめします。
お供えした天ぷらを家族でいただく「共食」の意味
仏壇にお供えした天ぷらは、お参りが済んだ後に下げて家族みんなでいただくのが正しい作法です。
これを一般的に「お下がり」と呼びますが、仏教的な文脈ではご先祖様と同じ食事を分かち合う「共食」として非常に重要な意味を持っています。
かつて捧げた料理を私たちが口にすることで、仏様や故人との精神的なつながりを再確認し、その力を分けてもらうという考え方が根底にあるからです。
単なる食事の摂取ではなく、供養の儀式における最終的な仕上げのパートだと言えるでしょう。
時間が経過して衣がしんなりしてしまった天ぷらは、出汁で煮て卵とじにしたり、温かい蕎麦やうどんの具として活用したりしても構いません。
形を変えてでも、感謝の気持ちを持って残さずきれいに食べきることが大切です。
久しぶりに集まった親族で食卓を囲み、故人の好きだった天ぷらを味わいながら思い出話に花を咲かせる時間は、何にも代えがたいお彼岸の供養となります。
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天ぷらだけじゃない!お彼岸に食べるその他の行事食
お彼岸の食卓といえば精進揚げなどの天ぷらが有名ですが、実はそれ以外にも「ぼたもち(おはぎ)」や「彼岸そば・うどん」といった多彩な行事食が広く親しまれています。
地域やそれぞれの家庭に伝わる伝統として、旬の食材をふんだんに使った料理を仏壇にお供えし、その後に家族みんなでいただくのが一般的な過ごし方です。
こうした料理が選ばれる背景には、仏教の教えである「不殺生戒(ふせっしょうかい)」を守り、肉や魚を使わない精進料理でご先祖様を丁寧に供養するという意図があります。
また、暑さ寒さも彼岸までという言葉があるように、季節の変わり目に消化の良い食事をとることで体をいたわるという、先人たちの賢い知恵もそこに息づいているのです。
例えば、春のお彼岸にはその時期に咲く牡丹にちなんだ「ぼたもち」、秋には萩の花に見立てた「おはぎ」をお供えするのが代表的な習わしといえるでしょう。
他にも、肉や魚を使わずに野菜や油揚げで彩る「精進寿司(五目寿司)」を用意したり、地域によっては邪気を払うとされる「赤飯」を炊いたりする風習も根付いています。
春の「ぼたもち」と秋の「おはぎ」の由来
お彼岸のお供え物として欠かせないのが、もち米とあんこを使った甘い餅菓子です。
これらは季節の花に由来して名前が変わる風情ある食べ物で、春は牡丹の花にちなんで「ぼたもち」、秋は萩の花に見立てて「おはぎ」と呼ばれています。
基本的に同じ料理ですが、漢字ではそれぞれ「牡丹餅」「お萩」と表記され、日本の四季を重んじる心が名前に込められました。
あんこの仕立て方も、時期によって使い分けるのが伝統的なスタイルです。
秋は収穫したばかりの小豆を使って皮の食感を楽しむ粒あんが多く、春は冬を越して皮が硬くなった豆を使うため、丁寧に皮を取り除いたこしあんが好まれます。
また、小豆が持つ鮮やかな赤色には魔除けの効果があると古くから信じられてきました。
ご先祖様に感謝を伝えるだけでなく、邪気を払い家族の健康を祈るという意味も持ち合わせており、天ぷらと並んでお彼岸の食卓を彩る重要な存在です。
彼岸そばや彼岸うどんを食べる理由
地域によっては「彼岸そば」や「彼岸うどん」と呼び、お彼岸の期間中に麺類を食べる習慣があります。
これには大きく分けて、体調管理と縁起担ぎという二つの理由が込められています。
まず、季節の変わり目である春分や秋分の頃は、寒暖差が激しく体調を崩しやすい時期です。
そのため、消化の良いそばやうどんを食べて胃腸を休め、体をいたわる先人の知恵が由来とされています。
また、お彼岸にご馳走をいただいた後の「胃休め」としての役割も果たしてきました。
精神的な意味合いとしては、そばには「五臓六腑の汚れを清める」という言い伝えがあり、体を清浄にしてからご先祖様を迎えるための食事と考えられています。
一方、うどんは「運どん(運を呼ぶ)」に通じるとされ、ご先祖様との縁を長く結ぶという願いが込められているのです。
いただく際は、カツオ出汁ではなく昆布や椎茸から取った精進出汁を使い、具材も油揚げや精進揚げを合わせるのが本来の作法といえるでしょう。
いなり寿司や精進料理の定番メニュー
お彼岸の席では、天ぷらと並んでいなり寿司も広く親しまれています。
本来の寿司は魚などの生鮮食品を使いますが、いなり寿司は大豆加工品である油揚げを主役にするため、殺生を避ける精進料理の理にかなったご馳走です。
俵型に整えられた形状は、五穀豊穣への感謝やご先祖様への供養の心を象徴しているとも言われます。
酢飯の爽やかな酸味は、揚げ物が多いお彼岸の献立において口の中をさっぱりさせる役割も果たします。
また、精進料理の定石として、具だくさんのけんちん汁も欠かせない存在です。
大根や人参、里芋などの根菜類を油で炒めてから煮込む調理法は、植物性の食材だけでコクと満足感を出すための知恵がつまっています。
その他にも、手間を惜しまず練り上げる胡麻豆腐や、乾物の旨味を凝縮させた高野豆腐の含め煮などが定番です。
これらは昆布や干し椎茸から丁寧にだしを取り、動物性食材を一切使わずに滋味深い味わいに仕上げられています。
まとめ:お彼岸に天ぷらはなぜ?理由を知り心を込めたご先祖供養を
今回は、お彼岸のお供え物や献立に悩まれている方に向けて、- お彼岸に天ぷらが選ばれる由来と理由- 精進料理における「精進揚げ」の意味- 失礼のないお供えのマナーや注意点上記について、解説してきました。
お彼岸に天ぷらを用意することは、殺生を禁じる仏教の教えに基づいた、非常に理にかなった習慣だと言えます。
肉や魚を使わず、旬の野菜を用いた精進揚げは、栄養価も高くご先祖様への感謝を表すのに最適だからです。
忙しい毎日の中で、一から精進料理を手作りするのは少しハードルが高いと感じることもあるかもしれません。
まずは無理のない範囲で、季節の野菜を一品だけでも揚げてみてはいかがでしょうか。
もちろん、心がこもっていれば市販の天ぷらをお皿にきれいに盛り付けるだけでも、十分な供養になります。
ご先祖様を敬い、正しいマナーで迎えたいと願うその姿勢こそが、何よりも尊いお供え物なのです。
きっと次のお彼岸は、形式にとらわれすぎず、清らかな気持ちで故人と向き合える温かい時間となるはずです。
ぜひ今年の春や秋の彼岸には、家族みんなで揚げたての天ぷらを囲み、思い出話に花を咲かせてみてください。
筆者は、皆様が心安らぐ素敵なお彼岸を過ごせるよう心より願っております。
