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子供に発達障害の疑いや診断がついたりすると、医師や保健師さんから「療育」をすすめられることがあります。
私の場合は長男に「自閉スペクトラム症」の診断がついてから、「療育」という言葉を聞くようになりました。
療育がどんなことをするのか、またそれが何に対して効果があるのかもイマイチわからなかったのですが、保健師さんや保育所の先生から話を聞いているうちに、「子供のために療育をするのが良さそうだから始めようか」と決めた我が家。
ただ長男がはじめて「自閉スペクトラム症」と診断された専門医療機関では、長男が通える療育施設が併設されていなかったこともあり、私自身で療育施設を探す必要がありました。
ですが長男を療育に通わせたいと思っても、どんな場所でどのような療育が受けられるのかわからないため、いきなり行き詰まります。
「療育がよい」とは聞くけれど、いったいどんなものなのか、またどのような場所で受けられるのかをまとめてみました。
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療育って何だろう?
療育とは、「医療や訓練、教育、福祉などを通じて、障害があっても社会に適応し自立できるように育成すること」です。
出典:政府広報オンライン 「発達障害って、なんだろう?」気づく
「療育」は、日本の肢体不自由児教育の創始者である「高木健次」先生によって提唱された言葉で、治療と教育を合わせた意味です。
平岩幹男「自閉症スペクトラム障害ー療育と対応を考える」のたとえを引用させてもらうと、
身体にたとえると、交通事故で両足を失った場合、その足は戻ってきませんが、義足をつけて普通に歩けるようになれば日常生活ではそれほど大きな困難はなくなってきます。それと同じことです。
と書かれているように、障害を完全になくすことを目的とするのではなく、障害があっても日常的の困難を少しでも減らせるように治療と教育をおこなっていきます。
療育の効果について
では発達障害のある子供やその疑いのある子供が、全員「療育」をする必要があるのかといえば、そうとは言い切れません。
療育を行わなくても自閉傾向がなくなる子どもたち(オプティマル・アウトカム)が存在することもわかってきました。ただし、オプティマル・アウトカムのグループはカナー型自閉症全体の5%以下にすぎません。
出典:自閉症スペクトラム障害――療育と対応を考える (岩波新書)
上記のように割合的には非常に低くても療育を行わなくても自閉傾向がなくなる場合、また発達障害の可能性がある人で療育に通わずとも一般社会で生活できている人もいます。
ただし療育については、「効果があったと思う」「子供が変化したようには感じない」というさまざまな意見がありますが、統計的に療育の効果を調査したものがないか探したところ、以下の論文が見つかりました。
療育教室に継続して参加している者は、多くの場合子どもに顕著な発達的変化が見られ,また母親の障害受容 も進んだ。子どもの発達については,集団活動の形態が言語を初めとする子どもの発達の諸側面の成長と子どもの集団適応能力の向上にとって有効であると考えられた.
出典:辻・田畑 2006「地域療育教室における発達障害児への早期支援に関する一考察」
この論文では、とある市でおこなわれている療育教室の事例が書かれていますが、最終的には療育教室に継続して参加している子供の多くに大きな発達的変化がみられる場合が多いという結論でした。
この論文による療育教室は親子でふれあいの時間があったり、スタッフの時間があれば教室終了後にも母親からの相談も聞いてもらえるという状況が背景にあります。
また「変化がみられる場合が多い」というのはあくまで「多い」という話で、療育に通うとすべての子供が変化が起きたわけではないようです。
それでも平岩氏によれば
発達障害の療育についての研究が進んだ北欧では、適切な対応によって子供たちが驚くほど伸びている例も多数報告されるようになりました。
と「発達障害の子どもを伸ばす魔法の言葉かけ (健康ライブラリー)」で書かれていましたし、自閉症を抱えている場合、育つ環境によって症状の出現に差があるという話があります。
そのためできれば発達障害に気づいたら早い段階で療育をおこなうなど、子供や親が障害や困難への対策について学び、適切な対応や環境を設定してあげることは重要です。
療育は子供のためだけではなく、親のためでもある
さらに私が療育の効果について調べてみたところ、どうも「療育に通わせること」=「子供の発達的変化がある」という解釈だけではありませんでした。
療育には子どものプログラムだけではなく、親のプログラムが必要です。われわれは親を療育における共同療育者として位置付け、支援しています。療育の意味を知ってもらうためには、単に話を聞いてもらっただけでは不十分で、子どもの療育プログラムを通じて療育の理論や効果を実感してもらうことが必要なのです。
出典:日本障害者リハビリテーション協会 情報センター 「自閉症の早期発見・早期療育システム -発達リハビリテーションの見地からー」
子供に対して療育の先生がアプローチすることで伸びる部分もあると思いますが、療育は子供へのアプローチだけでなく、親も同じような共同療育者として成長できたり、育児に自信を持てることなどの変化があります。
早期介入においては,専門家による実践とともに,親が介入の考え方や技法を身につけ,日常生活において実施することには有効性があると思われる。
出典:西田 2011「自閉症児に対する早期介入・早期療育の有効性について」
なので「療育」は、専門家にお任せすることで「子供の発達的変化が起きる」といった関係で成り立つのではなく、「親が安心できる」「子供を理解できるようになる」ことで「子供に変化が起きる」といった関係。
そのため「療育に通えさえすれば子供への効果がある」ことを期待すると、むしろ親子で苦しくなってしまうかもしれません。
療育を受けたいと思ったら、どうすればいいのか
とはいえ子供に診察を受けさせ、「発達障害」と診断がつき、療育を受けたいと思っても、何をしたらいいかわからない場合があると思います。
私の場合も最初に長男を受診した機関では、「療育」という言葉は教えてもいましたが、実際に次にどこに行けばいいのかを教えてもらえませんでした。
このような場合は、まずは身近な相談場所として、個人的には各市町村の保健センターに聞いてみるのが一番早いと思います。
保健センターは、乳幼児健診を実施するだけでなく、日常生活で育児への不安でも気軽に相談できる場所です。
ただ担当者によって対応の仕方はマチマチなので、保健センターに相談するのはちょっと嫌だと思う方は、他に発達障害情報・支援センター、児童相談所などでも相談ができます。
しかし現在は「療育難民」という言葉が使われているくらい、診察するにも、療育施設を見つけるのにも時間がかかる状況ですので、相談だけでも早めにしておくといいです。
また同じような状況のお母さんを見つけて、情報を得ることができると生の声が聞けていいですよ。
お母さん同士だと気兼ねなく、「あの病院は対応がよくなかったから…」とか「先生が話を聞いてくれなくて…」などの情報が聞けますので、オススメです。
療育を受けられる場所はどこ?
次に療育を受けられる場所について少し調べたことを書いておこうと思います。
まず私が知っているところでは「市町村独自の療育」「制度を使う療育」「病院の療育」の他に、「通信講座の療育」や本などを読み「独学の療育」など、やり方や受ける場所もさまざまでした。
市町村が独自におこなっている療育
まず身近にあるのは市町村が独自に実地している療育教室で、基本的に就学時前までのお子さんを個別、もしくはグループで療育を行っていることが多いです。
療育をおこなう実施回数も週に数回~月に1回程度とさまざまで、乳幼児健診で親御さんから相談があった場合や、保健師さんが気になって親御さんに声をかけた場合など、一度その子供の様子をみるために市町村の独自の療育を紹介されることもあります。
ただ市町村による独自の取り組みのため、行っていない市町村もあり、対象者はその市町村によって異なるようです。
比較的気軽に参加しやすく、またおやつ代が1回100円など安価に利用できることが多いです。
児童福祉法など制度を利用する療育
次に「児童福祉法」という制度を利用する場合になります。
早い段階から地方自治体の支援を希望する場合、第1次支援機関として未就学児を対象としている「児童発達支援事業」と、小学生から高校生までの就学児を対象とした「放課後等デイサービス」で発達障害児の療育がおこなわれています。
対象者:身体に障害のある児童、知的障害のある児童または精神に障害のある就学前の乳幼児(発達障害児を含む)
手帳の有無:問わない。療育の必要性が認められた児童を対象
業務内容:日常生活における基本的な動作の指導、知識技能の付与、集団生活への適応訓練など、利用障害児やその家族に対する支援を行う身近な療育の場
対象者:身体に障害のある児童、知的障害のある児童または精神に障害のある小学生~18歳までの就学児(発達障害児を含む)
手帳の有無:問わない。療育の必要性が認められた児童を対象
業務内容:授業の終了後または休業日に、生活能力の向上のために必要な訓練、社会との交流促進、その他の便宜を供与することなど
実際にどのような療育内容なのかは、施設によって異なります。
ただし「児童発達支援事業」に通う場合は対象が未就学児なので、子供が小学校にあがるときに新たに通える事業所を探すという問題が出てくる場合がありますので、注意が必要です。
また「児童発達支援事業」「放課後等デイサービス」ともに発達障害児は対象となっていますが、制度を利用するためには療育手帳など手帳の有無は問われないものの、サービスを利用するにあたっては受給者証が必要となり、持っていない人は手続きをする必要があります。
その他にに第2次支援機関いわゆる地域密着というよりも中核施設として、「児童発達支援センター」があります。
対象者:身体に障害のある児童、知的障害のある児童または精神に障害のある就学前の乳幼児(発達障害児を含む)
手帳の有無:問わない。療育の必要性が認められた児童を対象
業務内容:日常生活における基本的な動作の指導、知識技能の付与、集団生活への適応訓練の他、地域の障害児やその家族への相談、障害児を預かる施設への 援助・助言などを行う。また「医療型児童発達支援センター」の場合は加えて治療の提供
「児童発達支援センター」も、第1次支援機関である「児童発達支援事業」と同じように受給者証が必要です。
「児童発達支援事業」と「児童発達支援センター」の違いですが、2カ所とも障害児や家族に対して支援をおこなうことは共通していますが、それに加えてセンターは施設が有する専門機能を活かす、地域の中核的な療育支援施設としての役割があります。
参考サイト:厚生労働省 「障害児支援の強化について」
児童福祉法にもとづく事業所では料金が法律で定められており、利用者はその1割負担ですが、地域によって負担金があったり、施設によって実費負担金が違うなど料金が異なるようです。
ただし所得に応じて月額の上限額は決まっているので、一般的な世帯収入であれば利用料も5,000円程度であることが多いです。
病院での療育
病院での療育は内容も、対象者や費用も本当にさまざま。
心理士による評価に加えて、病院ならではの多職種の医療従事者がチームとして連携し個別支援計画を練っている場所も多いです。
また地域の関連機関との連携もおこなっています。
費用に関していえば保険適応内であれば、比較的安くすむと思いますが、保険適応外の場合は値段の上限がないために費用が高くなることがあります。
私も長男の療育1回(1時間)につき1万円です。
療育をおこなう人に必要な資格はないものの、実際は臨床心理士や発達心理士の方が関わっています。
私の長男が通っている療育は、日常生活における動作や知識などを学ぶのに臨床心理士が担当していますが、他にも医師、保育士や児童指導員、セラピスト、心理士、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などのさまざまな職種の方が関わっています。
通信講座での療育
「通える範囲に療育の場がない」「療育の空きを待っている」「仕事があるので療育に通わせることが難しい」などの理由から、通信講座の療育があることを知りました。
通信講座の療育としては、四谷学院の療育55段階プログラムが、価格も数万円~と高いものの比較的人気があるようです。
通信講座の場合、時間に制約がかからずにいつでも気軽にできることや、自己流ではなく親子で具体的な方法を教えてもらえるといったメリットがありますが、遊びを使ってというよりも勉強という側面が強いと感じました。
独学で療育
通信講座ではなく一から親御さんが自分で療育の方法を勉強して、実践するという方法もあります。
現在は発達障害のあるお子さんをお持ちのお母さんたちなどのブログも多くありますので、費用をかけずに情報を得ることはできますし、本屋さんに行けば発達障害に関する本を見つけることも可能です。
ただ独学の場合、誰にもその方法を評価してもらえないので自己流になったり、うまくいかないことで焦りを感じたり行き詰まる可能性があります。しかし時間も気にせず、費用もそれほどかけずに始められるので気軽であるというメリットは一番。
私は独学で療育を勉強するのであれば、最初に読むのをオススメするのは臨床心理士さんから教えてもらった「発達障害の子どもを伸ばす魔法の言葉かけ (健康ライブラリー)」が実践しやすく、わかりやすいと思います。
どんな内容かは、前の記事である「心理学から考える、子育て中のイライラ原因と解消方法」を参照してもらえればと思います。
療育について感じること
「子供のために療育が良さそう」という理由で、私は長男が通える療育施設を探しましたが、通うだけでなく色々な方法で療育ができることを知りました。
私の場合は子供が「長期間通うことができる」ことや、長男だけでなく「下の子供達や私、夫に対する支援もある場所」など、療育が私の居場所としても活用できるように条件をつけてみたところ、保健師さんや保育士さんから、現在通っている病院での療育をすすめられました。
ただ「療育難民」という言葉があるように、実際にすぐに療育施設が見つからない可能性があります。
また見つかったとしても、先生と考え方が違ったりして不満に感じるかもしれません。
療育は施設に通うことが目的ではありません。
自分たちに合った療育の方法を探すといいと思いますが、療育施設の空きは少ない状況ですので、行っていた療育をやめる場合は少し慎重に検討する必要があると思います。
前述したように療育は子供のためだけでなく、親のためでもあります。
苦しむために行くのではなく、親子で笑顔が増えるようになる療育を見つけることが最善です。